月山のふもとにあたる中山間地域でつや姫、雪若丸、こしひかり、はえぬきなどの特別栽培米を作っています。農薬・化学肥料もできるだけ控えて手間隙をかけて栽培、米ぬかを散布し微生物を活性化させる米ぬか農法を行っています。
贈る側、もらう側の視点を入れオリジナルギフトを米やもちで商品開発。かわいく実用性のある包装が人気です。
黒川まるいし農場さんは月山の麓の中山間地に農地があり、黒川能の里で暮らしています。
代々伝わる農地や、文化の伝承を担いながら、新しい経営や生産の仕方にもチャンレンジしてきました。
範正さんが手間をかけて作る特別栽培米を大手の取引先に出荷する一方で、自社販売もしています。
奥さんの彩織さんは主に自社販売を担当、範正さんの作る品質の良いお米やもち米を商品にし、主婦ならではの視点でかわいく実用性のあるギフト商品を売り出しています。
新しいことにチャレンジをし続けているご夫妻、最近は昔ながらの農法の良さや代々続いてきた生業への感謝を感じているそうです。
そんな家族のなかで育ってきた子どもたちは親元を離れ羽ばたこうとしているところ。家族への思い、農業に対する思いなどお話をお聞きしました。
黒川能の里、鶴岡市櫛引地区の黒川に農場を持つ小林さんご夫妻。夫の範正さんは明治時代から続く米農家の4代目です。
数枚の田を持つ兼業農家から始まり代々農地を増やしながら引き継ぎ、現在は専業農家となりました。
結婚してからはお父さんお母さん、奥さん、子供たち5人、犬、手伝いに来てくれる人たち、と大きな所帯で日々米づくりに励み暮らしています。
国指定重要無形文化財に指定され500年以上もの間地域で継承されている神事「黒川能」に、小林家は春日神社の氏子として関わっています。
地域住民として民俗伝統芸能を守ることの苦労や困難を感じつつも、季節を通して何度かある神事や能の伝承は、暮らしの中の一部として大きなものとなっています。
黒川の子供たちは幼い頃から狂言や能に触れて育ちます。範正さんも小さい頃から黒川の神事と農という暮らしの中で育ちました。
「僕は農家を継ぐもんだと思って育ちました。バイクが好きなので本心ではバイク屋をやりたかったんですけどね。農業をやって合間にバイクをやるかな、ぐらいの気楽な生活を想像してました(笑)」
高校を卒業後は就職するつもりで、既に研修先も決まっていましたが、知り合いに薦められて急きょ東京にあった「農業者大学校」に進学しました。農家の後継ぎたちや農業者になりたいという若者を集め、将来の農業経営者に育てることを目的とした学校でした。そこには全国から範正さんと同じような若者が集まってきました。北海道へ行って大規模農業の研修をしたり、ドイツ、オーストラリア、フランスなどの海外研修に行ったりと学生時代は楽しかったそうです。
「外国研修ではもみの木を育てたり馬車を使ったりする昔ながらの伝統的な手法を見たり、ワインを研究している大学を見学したりしました。農家民泊もあって観光気分で楽しんでいました」
他の国の農業を見学したことで範正さんは日本の農業の課題を改めて実感しました。同時に“農業者として自分の力を試そう”と志す同年代の仲間たちに刺激を受けました。昔ながらの閉ざされた“むら社会”農業からの卒業や、国や農協に収入面を依存しすぎず自分の農業の経営に責任を持つことの重要さを考えるようになりました。
卒業して故郷へ戻り、家の農業に加わりました。当時はお父さんとはあまり言葉を交わすもことなくそれぞれの作業を黙々とおこなっていたそうです。
お父さんから農地を引き継いだ時に、農業経営は変わらなければならないという強い意識を持ちました。そして経営者として試行錯誤で変革をしてきました。
2015年、販売部門を立ち上げ法人化。
「生産から販売管理までのすべてを一農家がやるのは難しいことです。大きな挑戦ですが、自分の作った米が県外で認められたり、大手の問屋や全国チェーン展開の企業などと直接結びつくことができるという、やりがいとメリットがあります」
話を聞いて、自分の作ったものを自分で売ることで、利益や価格以外の部分でもメリットがあるのかもしれないと思いました。
顧客と直接つながることで品質がダイレクトに取引に影響するし、消費側のニーズがどこにあるかも感じやすく、生産側の意識が高くなりお米の品質向上につながります。
ただ、自分で販売するということは、販路獲得の労力やマーケティング、発送の手間など負担もリスクも大きく、また毎年の米の出来不出来もあるので苦労も多いだろうなと感じました。
範正さんは、地域で異業種の経営者同士のつながりを広げるために鶴岡青年会議所(JC)に入会して、日本青年会議所の「米穀部会」に出向し、全国の部会長も務めました。そこで全国の同じ年代の仲間と交流できたことはとても大きかったそうです。今でも当時のつながりや関係が生きて、販路を広げることができているそうです。
「米穀部会で全国の生産者とつながりを持てたことが販路拡大だけでなく、情報収集や助け合いにもつながって、とてもありがたいと思っています。直接取引した限りは、取引先に米を供給する義務があり、どうしても収量が足りない、不作、そんなピンチの時にも相互に助けあって対応できています」
また、商品加工の依頼先に不測の事態が起こることもあります。
「最近もちの商品が人気なんですが、今まで頼んでいた地域のもち工場が閉鎖することになりとても困ったことがありました。米穀部会のつながりで、四国の加工工場を紹介してもらいました。ホント助かることが多いですね」
米を育てる農作業の毎日の中であえて外に出て、人脈を培う努力をしていた範正さんの熱心さを感じました。地域内で異業種の経営者たちとつながりをつくることや、地域を超えて同業者同士のつながりを獲得することは、販売の土壌を耕しておくような努力で、必ずあとで生きてくるものだったに違いありません。
黒川まるいし農場さんの農地は月山寄りの中山間に位置しています。平地より田の面積が小さめで手間はかかりますが、月山からの雪解け水が流れこむ肥沃な土壌ときれいな水の恵まれた環境です。
昼夜の寒暖差が粘りや甘みの強さを生みます。その田んぼでつや姫、雪若丸、こしひかり、はえぬきなどの特別栽培米を作っています。
特別栽培米とは、農薬・化学肥料もできるだけ控えて栽培したお米です。 秋の稲刈り後に、米ぬかを散布し微生物を活性化させる米ぬか農法をおこなっています。 また、(株)理研分析センターに委託して、全品種・土壌の放射性物質検査もおこなっています。
安心で美味しいお米を育てるために土壌づくりを苦心している成果は、「こしひかり」米の食味ランキング10年連続特Aと高い品質を保ち、顧客の信頼を得ています。
安定した大口の取引先獲得にプラスして、小売で年間を通して収入を得るために大きな協力者となっているのが奥さんの彩織さんです。子育てと家事をこなしながら販売部門を担当しています。
ネットショップなどを使って一般の消費者に売る商品を開発しています。女性目線、そして母ならではのアイデアで作られる黒川まるいし農場オリジナル商品は人気があります。
かわいく実用性のある包装、そしてお祝いギフト商品も、贈る側、もらう側の視点を取り入れてオリジナル商品の販売に成功しています。
いくつか紹介してもらいました。
い草の米俵入り「米Memoly(マイメモリー)」《コシヒカリ》
畳職人さんが手作りした米俵に、自分が生まれた時の体重と同じ重さのお米をセット。両親に育ててもらった感謝を伝える温もりあふれる商品です。これを抱くと当時のことがよみがえって、ご両親もうれしいことでしょう。
おくるみ米「Baby 米ビー(ベイビー)ミニ」
出産の内祝いに名入りで可愛い風呂敷でラッピングしたおくるみ米は大切な赤ちゃんのようで、気持ちを伝えられるギフトだと思います。
また、黒川まるいし農場さんでは、うるち米の他にも でわのもち、こゆきもち、ひめのもちなどのもち米も作っていて、農家ならでは、こだわりのもち米100%のおもちを作って商品化しています。
1歳の子供を祝う一升餅を背負って歩かせる伝統行事に実用的でかわいい商品があります。
一升分の個包装の丸もちを小分けした商品。名入れラベルを付け、リュックとセットした商品。お祝いに駆けつけた親戚にもすぐわけられおみやげに。リュックは使用後に使えます。
実際の商品はこちらをご覧ください→ https://k-maruishi-farm.com
(時期によって品切れしている場合もあります)
範正さんが作る品質の良いお米をとても大切に、彩織さんが商品にして手を加え、お客様に届ける。そこに家族の愛情を感じました。これは思いの伝わる商品だなあと思いました。
現在は生産量の25%を小売に回しているそうです。夫婦の信頼関係があってこその素材を生かした商品作りだなあと思います。
数年前にお父さんが農作業を引退して、現在は範正さんがひとりで農場に出ています。
「おやじのおかげで今がある、そう思うようになりました。これまでの信用のおかげで資金を借りるときもスムーズです。それは今までおやじが農地を苦労して守ってきてくれたからだ、と感じています」
思い切った改革を進めてきた範正さんですが、先祖代々それぞれにやってきたことにも意味があるんだ、と思うようになったそうです。
おじいさんの代では米のみでなく、畑も増やしてきました。花も出荷していたことがあるそうです。数年前水害で球根が全滅し、しばらく花を植えるのを休んでいましたが、畑を増やしてきたことにもきっと意味があると感じるようになり、再度チャレンジをすることにしたそうです。
おじいさんは空いた土地を利用して黒川能の王祇祭で使う山椒を作っていました。
「山椒はここの土地に合うようで、香りも風味もとてもいいものが育つんです」と彩織さん。
その山椒を使って商品ができないかと考え、香辛料を販売することにしました。唐辛子も自分で栽培して、収穫後は手作業でタネも取り除いて処理します。それをブレンドしたのが「黒川山椒とうがらし」です。
こちらも産直やネットで販売しています。
日々の忙しい農作業や販売の中で5人の子供たちを育ててきたご夫妻。お子さんたちも暮らしの一部としてごく自然に農作業風景を目にし、触れながら育っています。
「会社組織にして広げたふろしきは自分でくるめたいと思っています。子供たちに継がせるかどうかは、正直、迷っています」と範正さんは言います。
長男の凛太郎さんは今、東北農林専門職大学に進学、専門職を目指しているそうです。
「息子は今研究職を目指して勉強しています。農業おもしろそう、やってもいいかなと言ってくれてるんです。でも複雑な思いです。若い時の自分と一緒で、まだつらいところを知らないから」
「帰ってきて一緒にやってみて、もしそれでもやりたい、というならやってもらえたらいいし、そうでなければどうしても継げ、とは言えない」 とお二人。
それでも、「県民のあゆみ」の企画で農業を志す若者たちとして掲載された息子さんのインタビュー記事を、うれしそうに見せてくれました。農業を楽しそう、と思ってくれるだけでも今は貴重な人材です。
範正さんはお父さんとやってきた農業を振り返ることがあります。経営改革のために効率化を考えて変えてきたことも多いですが、振り返るとやはり大切なのは土づくりです。
「近年の異常気象で今までと違う急激な気象の変化で悩まされることが多いです。天候は自分たちの力ではどうにもできないんですが、土づくりは結果につながるという実感があります」
範正さんは冬、雪が深いうちに肥料を仕込んでいます。乳酸発酵、こうじ発酵を利用した肥料を冬の間ハウスの中でかき混ぜて大量にじっくり仕込みます。見せてくださいと言ったら、寒いし臭いし大変だから、と言われてくじけました。
「毎日通って毎日混ぜています。状態を見ながら手をかけて育っていくのを見守って、まるで子育てみたいです。結果につながるから楽しい。自己満足です(笑)」
冬はハウスの中は肥料を発酵させる大きな室となります。土に気を配ることは面積を増やさずとも収量に結果が出ます。
「昔のように土を大切にして、そして農地を大切にして丁寧にやって行きたい。収穫が終わったら土を育てる、肥料を準備する、という昔ながらの農業に意味があることが今更ながらわかってきたんです」と言う範正さん。
「今はやらされているわけではなく、やりたい、と思って農業をやっています」
多くの苦労はあれど、自分のやった努力が結果として出る、そこにやりがいを感じています。
こんな農家さんが作るお米です。おいしくないわけがないですね。
代々守られてきた農地に、家族の愛情、そして範正さんが加えた経営者として全国へ広がる販売網と人とのつながり。
高齢化、担い手不足、気象異常、米価格の不安定さ、など私でも思いつく課題はたくさんあります。
今、範正さんと同じ世代の農家さんたちは皆同じように過渡期を迎えています。
次世代の農業がどうなるかということは、私たち消費者にとっても大きな問題です。
家族で多くのものを大切に引き継ぎ、絶え間なく努力をして品質を上げ、さらには販売商品を打ち出している農家さんの姿を応援したいと、強く思いました。
小林さんご夫妻、ありがとうございました!これからもいい作物と商品を作り続けてください。
2024/10/17
まるいし農場さんのお米、つや姫なのに良心的なこのお値段でびっくり。ぜひ買いたいと思います。