大手企業のマーケティング戦略は、私たちの想像をはるかに超えている。
テレビCM、新聞広告、折込チラシ、SNS広告、Web広告、店頭イベント。ありとあらゆる手段を使い、顧客に認知してもらい、購入してもらい、ファンになるまでの流れを緻密に設計している。
例えばイオンやAmazonをはじめとする全国規模の企業は、莫大な予算と優秀な人材を投入し、科学的な根拠に基づいたPDCAサイクルを回している。私たちが毎日使っているスマートフォンからも、行動履歴や閲覧履歴などが蓄積され、それらはビッグデータとして高度なマーケティングに活用されている。※スマートフォンの設定や使っているアプリに拠る。
地方の小さな企業が、同じ土俵で真っ向勝負をしてとても勝てる相手ではない。
中にはその一部の手法を中小企業向けに提供するサービスもある。SNS広告やポータルサイト、予約システムなどは比較的手軽に利用できる。
しかし、それらはあくまで大手が作った仕組みの上に乗るものであり、自分の店に最適化されたものではない。また、利用するほどプラットフォーム側にはデータが蓄積されていくという仕組みだ。
では私たちに勝ち目はないのだろうか。
私はそうは思わない。
スポーツでも格闘技でもそうだが、強い相手には強い相手なりの弱点がある。大きな組織だからこそ手が届かない領域がある。
それは「人の気持ち」だ。
デジタルマーケティングは、人を属性や趣味嗜好、行動履歴によって分類し、最適な広告を届けようとする。
確かに非常に優れた仕組みだ。
しかし人間は、そんなに単純ではない。
例えば、普段は時短料理ばかり作っている人が、ある日突然、手間のかかる料理を作りたくなることがある。
なぜ今日なのか。
どのくらい手間をかけたいのか。
それは本人にも説明できなかったりする。
また、普段は人との会話を避けたいと思っている人が、ある日ふと誰かと話したくなることもある。
そんな時、その人は効率的なチェーン店ではなく、話を聞いてくれる店主のいる小さな店を選ぶかもしれない。
人には気分がある。
感情がある。
そして例外がある。
私はここに、大手企業の苦手分野があると思っている。
大手企業は効率化が得意だ。
標準化も得意だ。
しかし、一人ひとり異なる感情の揺れに寄り添うことは得意ではない。
なぜなら、それはひどく効率が悪いからだ。
私たちはつい、大手企業の真似をしたくなる。
SNSを頑張る。
動画を作る。
ネット広告に課金する。
もちろんそれも必要だ。
しかし、私たちには私たちの武器がある。それに気がついているだろうか?それは大手企業に対して時に非常に有効な武器だというのに。
その武器とは、
顔が見えること。
想いが伝わること。
お客様一人ひとりに合わせられること。
そしてこの地域をよく知っていることだ。
そこに、私たち中小企業のチャンスがある。それはたった一つのチャンスと言っていい。
商品力、価格、システム、広告予算。
こうした分野で真正面から戦えば勝ち目はない。
しかし、私たちは人と人との関係性や、小さな気持ちの変化に寄り添うことならできる。
このごく当たり前のことが、実は大手企業のマーケティングが最も苦手とする部分なのだ。
前回お話ししたアクティブ世代へのアプローチも同じことだ。
デジタルだけでは伝わらない価値を、アナログで、一人ひとりに丁寧に届ける。
その積み重ねこそが、地域の中小企業にとって最も強力な差別化になる。
大手企業と同じことをして勝とうとするのは、自分を騎士と思い込み、風車に突撃していくドン・キホーテのようなものだ。
戦う場所と方法を間違えてはいけない。
孫子の兵法に「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」という言葉がある。相手の実情を知り、自分の実力や弱点も理解していれば、何度戦っても危険な状況には陥りにくい。という意味である。
私たちは私たちの強みを知り、それが生きる場所と方法で戦うべきなのである。
では具体的に何を伝えればいいのだろうか。
値段か。
品質か。
機能か。
実はそうではない。
次回は、大手には真似のできない「人で選ばれる店づくり」について考えてみたい。