

鶴岡市大山、酒蔵のまちにある「サンタムール」は、地酒はもちろん、ワイン、そしてジャンルにとらわれない料理を気軽に楽しめるお店です。昼は親しみやすい大衆食堂、夜はゆったりと過ごせるレストラン・バーとして、地元の人から観光客まで幅広く親しまれています。かつて地域の酒屋として愛された場所のあたたかさを受け継ぎながら、新しいかたちで人が集い、つながる場所として歩み始めています。
かつて地域に親しまれていた酒屋から、新たなかたちで生まれた「サンタムール」。唎酒師・ソムリエとしてお酒と食の魅力を伝えながら、地域おこしにも関わってきたオーナーシェフの佐藤大さんが、「お酒や食を楽しむ空間を通して、人を元気にしたい」という想いではじめたお店です。
昼は気軽に立ち寄れる大衆食堂、夜はワインや地酒を楽しめるレストラン・バーとして幅広い世代に親しまれ、人生の節目や大切な人との特別な時間にも寄り添っています。誰もが安心して過ごせる場所づくりを大切にしながら、今後はレンタルスペースや民泊、雇用創出などにも取り組み、人に力を与える地域の拠点を目指しています。

お酒のまち鶴岡市大山にオープンした「地酒・ワインと料理の店 サンタムール」。長年、酒屋として地域のニーズに寄り添ってきた場所に新しいストーリーが生まれています。
お店のオーナーシェフ・佐藤さんにお話しをお聞きしました。
この場所は佐藤さんの実家。かつては「リカーショップ マタシロー」として親しまれていました。酒蔵のまち・大山で、お酒だけでなく手作り惣菜なども販売し、地域の人々にとって身近な存在だったといいます。
高校卒業後、佐藤さんは実家の酒販店を手伝いながら経験を積みました。仕事を通じてワインアドバイザーの資格を取得し、その後は唎酒師やソムリエの資格も取得。お酒への知識を深めていきました。
「次第に単にお酒を売るだけじゃなくて、ワインや地酒をもっと楽しんでもらうことを伝えたいという思いを持ち始めました」
酒蔵を訪ねたり、寿司店で経験を積んだりと、地元のお酒と食を結びつける取り組みにも挑戦していった佐藤さん。その一方で、地域のニーズに応え続けるため、店は時代に合わせて営業形態を変えながら経営を続けていました。コンビニ運営や酒販店業務など、多岐にわたる多忙な日々が続いたといいます。
「何か地域に貢献したいという思いはずっとありました。でもその頃は正直いっぱいいっぱいでしたね。忙しすぎて、心身のバランスを崩したこともありました」
2013年にお店は閉店。それから佐藤さんは長井市で地域おこし協力隊として活動、また、粟島の村営レストランの運営や地域資源を生かしたワインづくりで地域おこしにも関わりました。ぶどうづくりにも携わるなど素材や地域の人々と向き合い、コロナ禍での飲食店経営の厳しさも自ら体感しました。そして、鶴岡に戻り加茂に新しくできた施設のレストランでも経験を重ね、食と地域、人とのつながりについて考え続けてきたといいます。
「お酒や食って、その土地や人と全部つながっているんですよね。そういうことをたくさん感じさせてもらいました」
そうした歩みの先にたどり着いたのが、やはり自分の原点で自分のスタイルで「酒ありきで料理を楽しむ店と空間づくり」。ジャンルや国籍に縛られず自由な発想で提供する、新しいかたちの「サンタムール」。
「【再生と復活】をテーマに、たくさんの人に支えてもらって、またここまで戻ってくることができました」
できるだけ費用かけないように、と自分がやったり知人に頼んだりできるだけ手作りで仕上げたという店内は、佐藤さんの趣味であるガンプラ、ギターなども並び、肩の力が抜けるあたたかな空間となっています。

店名の「サンタムール(Saint Amour)」は、フランスに実在する村であり、ワインの名前でもあります。意味は「聖なる愛」。村の中の小高い丘に教会があり、そこで式を挙げると七代先まで祝福がある、と言われている場所なんだそうです。
サンタムールの店主・佐藤さんは、この名前に「人を元気にし、祝福を届ける場所にしたい」という想いを重ねます。お店の再出発を支えてくれた人たちへの恩返しの気持ちも、その原動力になっています。
「あったかい食で人を元気にしたいんです。食は人を元気にしますよね。料理の最強のスパイスって、やっぱり愛情だと思うんですよ」
そんな想いが息づく店には、さまざまな人が訪れます。知り合いや地域の人はもちろん、近くの加茂水族館を訪れた観光客が、検索をきっかけに足を運ぶことも多いそうです。
「昼は誰でも入りやすい大衆食堂、夜は予約制でコース料理もやっています。大山ではあまりないスタイルかもしれませんね」
“家庭料理以上、レストラン未満”。そのほどよい距離感が、気取らず、それでいて少し特別な時間を生み出しています。
ランチはラーメン、パスタ、米沢牛のカレー、ジャンボ唐揚げ、ピラフなどバリエーション豊か。「誰と来ても選ぶのに困らないように」と、あえて“間口の広いメニュー構成”にしているといいます。
ディナーは魚や肉を使ったコース料理で、予算に応じた柔軟な対応も可能。貸し切りの演出にも対応し、シャンパンサーベルやシャンパンタワーといった特別な演出も依頼できます。記念日やイベントには、まさに“記憶に残る夜”を演出してくれます。
テイクアウトにも対応し、大山の酒蔵まつりや寒だらまつりなど、地域の季節イベントも店内企画として取り入れるなど、かつての「マタシロー」時代から続く地域密着の姿勢も健在です。
特筆すべきは「栄子のぼた餅」や「栄子の赤飯」の販売。栄子さんは佐藤さんのお母様の名前で、今もマタシロー時代と変わらず愛情を込めて手間をかけて作っています。素朴で懐かしい味は、地元の人々にとっても思い出のそのもので、今では遠方からもわざわざ買いに訪れる人がいるほど人気商品です。
「たくさんは作れないんですが、これを目当てに来てくれる人がいるのは本当にうれしいですね」
懐しさと新しさ、そして遊び心が交わる場所として——。サンタムールは、大山に生まれた新しい“人が集まる拠点”になりつつあります。

「実は、長井で知り合った仲間から、“ここでプロポーズしたい”って連絡が来たんですよ」
突然の相談に驚きながらも、大切な瞬間を任されたことを受け止め、貸し切りでの対応や料理の準備はもちろん、シャンパンサーベルやシャンパンタワーの演出まで全力でサポート。まるで自分のことのように緊張しながら、その特別な時間に寄り添ったといいます。
そしてプロポーズは見事成功。
「自分の店が特別な時間を支える場として選ばれたことに、大きな喜びを感じました。ありがたいことです。これからもそういう場所として使ってもらえるよう頑張りたいと思っています」
また、障がいのある子どもを持つ家族から貸切の相談を受けたことも、強く心に残っている出来事のひとつです。
「外食が難しいので、いつもお弁当で済ませているという話を聞いて、あったかい料理を食べさせてあげたいなと思ったんです。じゃあ、うちでできることをやってみようと」
子どもにとって“レストランで食事をする”という初めての体験。温かい料理と安心できる空間の中で、家族一緒に食事の時間を過ごすことができたと感謝の言葉が寄せられました。
「自分もすごく力もらうんですよね、そういう時って。悩んでいる人がたくさんいて、こういう店があることに価値があるのなら、自分にもっと何かできるんじゃないかなと思うようになりました」
“愛情”という意味の店名の通り、「サンタムール 」は特別な時間、大切な時間を過ごすお客様に寄り添い、人生の節目を温かく包み込む場所として、選ばれるようになりました。

佐藤さんは今、より多くの人が柔軟に関われる場所づくりを目指しています。
隣接する空いた家屋を活用し、新たにレンタルスペース事業を開始。さらに民泊事業の展開も視野に入れています。
「子育て中のママさんが気兼ねなく使える場所だったり、遠方から来て数日滞在できるスペースを考えています。障がいのある人たちも集える場所になったらいいなと。食事も出しながら、柔軟に使ってもらえるようにしたいんです」
その言葉には、「再生と復活」という佐藤さんのテーマが、次の挑戦へとつながっていることが感じられます。
「飲食店として食事を出すのはもちろん、ほかにも人の役に立てることをやっていきたいですね」
高齢者の孤食や子育て世代の負担、障がいのある方の雇用などの地域課題にも食に関わるお店として目を向けています。
「疲れている人や元気がない人に、ここで少しでもエネルギーを持って帰ってもらえたら」
そして最後に、笑顔でこう語ってくれました。
「死ぬまでに、自分の銅像ができたらいいなって思うんです」
大山には、大山公園を造園し地域に寄贈した加藤嘉八郎有邦氏の銅像が公園内に立っています。2代目として酒蔵を発展させるとともに、地域に憩いの場を残こした人物の功績。それにならって、お酒を通して地域に貢献し、人が集い憩える場所をつくっていきたい——そういう夢がこもっている言葉としてお聞きしました。
人を想い、人に寄り添う場所——。
サンタムールはこれからも、地域の中で新しい価値を生み出し少しずつ進んでいきます。
佐藤さん、お話ありがとうございました。