
先代の頃から地域の人々の髪や肌を整え続けてきた「理容ジュニア」さん。お母さんからお店を受け継いだ小池真由さんは、「お客様に育ててもらった」と感じています。
東京での修業を経て地元・鶴岡へ戻り、受け継いだのは技術だけではなく、お客様との信頼関係でした。髪を切ること、顔を剃ることはもちろん、お客様の人生の節目に寄り添ってきた理容店。その歩みと、小池さんが大切にしている想い、そしてこれから目指すお店の姿を紹介します。
取材を通して感じたのは、理容師は肌や髪を整えるだけでなく、お客様の人生に寄り添う仕事だということでした。「お客様が私を育ててくれた」という小池さんの言葉には、長年積み重ねてきた信頼に対する感謝が込められています。新しい技術を学び続けながらも、人とのつながりを大切にする理容ジュニア。これからも地域に愛されるお店であり続け、進化していきます。
「創業当初はこの場所じゃなかったんですよ」
そう教えてくれたのは、現在お母さんの跡を継ぎ「理容ジュニア」を経営する小池真由さんです。
昭和42年ごろ、お母さんが鶴岡市みどり町、現在の南葉輪業さんの向かいあたりで理容店を開業。その後、昭和57年ごろ現在の場所へ移転しました。真由さん小学校4年生ごろのことだったそうです。ご自宅兼お店だったので、多くのお客様に親しまれているお店を身近に感じ暮らしていました。真由さんがその歴史を受け継いだのは今から約5年前。半世紀以上続く理容店のバトンを引き継ぎました。
「小さい頃から、母と一緒に働くスタッフの女性理容師さんたちを見て育ったので、理容師という仕事は特別なものではなく、とても身近な存在でした」
そう話す真由さん。ごく自然な流れで理容師の道を選びました。
最初から実家のお店に入るつもりだったわけではありません。
当時はバブル景気の時代、「一度外へ出て、修業してから戻ってこよう」と考えていました。
美容学校卒業後、真由さんが選んだのは東京。全国から理容師の卵たちが集まる専門学校へ進み、その後、テレビ局近くの人気サロンで約5年間修業を積みます。
「数ある中から、自由な服装でよくて、一番雰囲気がいいお店を選んだんです(笑)。それが大正解でした」
今も当時の同僚たちと仲が良く、交流があるそうです。
その店での修行時代は、もちろん決して楽な日々ではありませんでした。
今のように動画で技術を学べる時代ではなく、先輩の仕事を目で見て真似して覚える毎日。
テレビ局が近かったこともあり、お客様はテレビ業界の方々が中心。番組収録後の出演者のヘアを整えるため、スタジオへ出向くことも度々あったそうです。
「番組の罰ゲームで髪を切られた人の仕上げをするような仕事もありました。収録が終わるまで待機して、終わったら仕上げをするんです」
テレビには映らない裏方の仕事ですが、最前線の現場で鍛えられた経験は、今でも大きな財産と楽しかった思い出になっています。
その後、知人から「手伝ってもらえないか」と頼まれ、池袋のユニセックスサロンで約半年勤務。客層がそれまでとまったく違う環境で経験を積みました。理美容どちらもあるサロンで、若い男性客も多いサロンでした。
ヘアカタログと同じにして欲しいというお客様の要望にも、その場で応えなければなりません。
「アフロできますか?と聞くお客様もいたりして、なんでも『やります!』って答えていました」
新しいヘアスタイルにも挑戦。そんな環境が理容師としての度胸を育てていきました。
「これなら、この仕事で食べていける。」
技術だけではなく、自分の力でお客様に喜んでもらえるという自信が生まれた時間だったそうです。
そして鶴岡へ帰郷。
長年、お母様が信頼を築いてきた理容ジュニアで、新たな一歩を踏み出しました。
お母さんが大切にしてきたお店を継ぐために、修行をし経験と自信をつけて戻ってきたそんな真由さんですが、
お店を継ぐにあたってたくさんのことを感じてきたそうです。
理容ジュニアが長年愛され続ける理由について伺います。「できるだけお客様を断らない」という真由さんの信念。その言葉の裏側には、長年受け継がれてきた、お客様との深い信頼関係がありました。
「私の中に、一つだけ大事にしている言葉があるんです。」
そう話し始めた小池真由さん。
その言葉は、とてもシンプルでした。
**「捨てない。」**
最初は何のことだろうと思いました。
「できるだけお客様を断らない。できることなら、最後までお付き合いしたい。それが私の考え方なんです。」
この一言を聞いた時、理容ジュニアというお店の本当の姿が見えた気がしました。
近年、店主の高齢化によって閉店する理容店や美容室が増えています。
長年通ったお店が突然なくなり、「どこへ行けばいいか分からない」と困るお客様も少なくありません。
そんな話を耳にするたび、小池さんは「できる限り受け入れたい」と考えるようになったそうです。
その象徴ともいえるのが、パンチパーマのお客様のお話でした。
実は、小池さんはパンチパーマを専門的に経験してきたわけではありません。
お母様から引き継いだ時、お客様には正直にこう伝えたそうです。
「私、パンチパーマはあまり得意じゃないんです。もしよければ、上手なお店をご紹介します。」
すると返ってきた言葉は、予想外でした。
「いいよ。ここでやって。」
その一言に、小池さんは覚悟を決めます。
「じゃあ、一生懸命勉強します。」
それからは講習会へ通い、技術を磨き、お客様と相談しながら少しずつ仕上がりを高めていきました。
「今日は少し短くしてみようか。」
「今回はこんな感じにしてみよう。」
そんな会話を重ねながら、お客様と一緒に技術を育ててきたそうです。
「私は『頭を貸してください』という気持ちなんです。」
この言葉も、とても印象に残りました。
お客様は、お金を払って来店してくださる存在。
それなのに、小池さんは「私を育ててもらっている」と話します。
「娘を育てるような気持ちで見守ってくださるんですよ。」
だからこそ、
「ありがとうございます。」
という言葉が自然に出るのでしょう。
技術だけでは続かない。
信頼だけでも続かない。
技術を磨き続ける姿勢と、お客様への感謝。
その両方があるからこそ、半世紀以上も愛されるお店になったのだと感じました。
お母様から受け継いだお客様も、今もなお通い続けてくださっています。
もちろん、担当が変われば離れてしまう方もいます。
それでも、多くのお客様が変わらず足を運び続けている理由は、技術だけでは説明できません。
「この人にお願いしたい。」
そう思わせる安心感が、理容ジュニアにはあるのでしょう。
取材中、小池さんは何度も「ありがとうございます」という言葉を口にしていました。
お客様への感謝。
地域への感謝。
そして、お店を築いてきたお母様への感謝。
その積み重ねが、理容ジュニアというお店の空気をつくっているように感じました。
次回は、東京でのテレビ局での仕事や、お客様との忘れられないエピソードをご紹介します。小池さんが「お客様の人生の節目に関われることが、この仕事の一番の喜び」と話す理由が見えてきます。
「この仕事を続けていて、一番うれしいことですか?」
そう尋ねると、小池真由さんは少し考えてから、穏やかな笑顔で答えてくれました。
「お客様の人生の節目に関わらせていただけることですね。」
その言葉が、とても自然で、印象に残りました。
東京で修業していた頃、真由さんが働いていたのはテレビ局の近くにある理容室でした。
テレビ関係者が多く訪れ、ときには番組収録後のスタジオへ呼ばれることもあったそうです。
「収録が終わったら、最後にきれいに整えるんです。」
バラエティー番組の罰ゲームで坊主頭になった出演者の仕上げを任されたこともあると言います。
テレビには映らない仕事ですが、裏側で番組を支える理容師の存在を初めて知りました。
「スタジオに入る時は『失礼します』って(笑)。終わったら整えて帰るだけなんです。」
そんな華やかな現場を経験した真由さんですが、今、一番やりがいを感じるのは、地域のお客様との日々の時間だと言います。
「今日は同窓会があるんです。」
「旅行へ行く前に、きれいにしておきたくて。」
「孫の結婚式なんですよ。」
そんな話を聞くたびに、小池さんの気持ちも自然と入ります。
「じゃあ、その日に合わせて一番いい状態にしましょう。」
もちろん毎回全力で仕事をされています。
それでも、お客様にとって特別な一日のために髪を整える時間は、理容師として何よりもうれしい瞬間なのだそうです。
私も話を聞きながら思いました。
理容師は髪を切る仕事ではあるけれど、本当は「人の人生を整える仕事」なのかもしれません。
大切な日を迎える前に、少し気持ちを整え、自信を持って出掛けられるようにする。
そんな役割も担っているのです。
そして、もう一つ忘れられない言葉がありました。
「私は、お客様に育ててもらったと思っているんです。」
パンチパーマのお客様もそう。
新しい技術に挑戦するときもそう。
「頭を貸してください。」
そうお願いすると、お客様は笑いながら協力してくださる。
「じゃあ、一緒に頑張ろう。」
そんな空気が、このお店にはあるのだそうです。
お客様は代金を払って髪を切りに来ているはずなのに、小池さんは「私を育ててくださっている」と話します。
その感謝の気持ちがあるからこそ、「ありがとうございました」という言葉にも重みがあります。
取材の最後、小池さんはこんな話もしてくださいました。
「旅行の話やライブの話、結婚の話、お子さんのこと、仕事の悩み……。皆さん、それぞれの人生を話してくださるんです。それを聞けることが本当に楽しいんですよ。」
理容室は髪を切る場所。
でも、それだけではありません。
人生の出来事を語り、笑い合い、ときには悩みを打ち明ける場所でもあります。
だからこそ、「小池さんじゃなきゃ」と言ってくださるお客様がいるのでしょう。
技術だけでは築けない信頼があります。
地域で長く愛される理容ジュニアの魅力は、そこにあるのだと感じました。
次回はいよいよ最終回。変化する時代の中で、理容師だからこそできることとは何か。そして理容ジュニアが描く、これからの未来についてお届けします。
一時間以上にわたってお話を伺ってきましたが、小池真由さんから何度も聞いた言葉があります。
「勉強し続けなければいけない。」
長年続く理容店と聞くと、「昔ながら」のイメージを持つ方もいるかもしれません。
でも、理容ジュニアは違いました。
講習会へ参加し、新しい技術を学び、オンラインセミナーやYouTubeも活用しながら知識を更新し続けています。
「昔は先輩の背中を見て覚えるしかありませんでした。でも今は新しい技術や考え方がどんどん出てきます。だから、自分も変わらないといけないんです。」
その姿勢は、お客様への向き合い方にも表れています。
最近は、男性も女性も美容への関心が高まり、髪だけでなく、お肌や頭皮のケアについても詳しい方が増えました。
「これできますか?」
そんな質問にも応えられるよう、日々勉強を続けているそうです。
これから挑戦してみたいこととして挙げてくれたのが「脱毛」でした。
少し意外に感じましたが、お話を聞くうちに、その理由が見えてきました。
「最初は、脱毛を始めたら理容師の仕事が減るんじゃないかと思っていました。」
ところが実際には違いました。
医療脱毛を受けても、襟足のデザインやお顔そりは理容師だからこそできる仕事が残ります。
「どんな形に整えるかは、私たちの技術なんです。」
すべてを機械に任せるのではなく、その人らしさをデザインする。
そこに理容師の価値があると、小池さんは考えています。
「理容師だからできることを、もっと大切にしたい。」
その言葉には、この仕事への誇りが感じられました。
そして最後に、「どんなお店にしていきたいですか」と伺うと、返ってきた答えはとても小池さんらしいものでした。
「肩肘を張らずに来られるお店ですね。」
男性も女性も。
若い方も、ご年配の方も。
親子でも、ご夫婦でも。
髪を切るためだけではなく、ほっと一息つける場所。
そんな存在でありたいと言います。
「今来てくださっているお客様のお子さんが、大きくなってまた来てくださる。そんなお店になれたらうれしいですね。」
世代を超えて続くお店。
それは、建物が残ることではありません。
人と人とのつながりが受け継がれていくことなのだと思います。
今回、小池さんのお話を伺っていて感じたのは、理容ジュニアは「髪を切る場所」というより、「人生に寄り添う場所」だということでした。
初めて髪を切る小さなお子さん。
就職や結婚を控えた若い世代。
仕事を引退されたご夫婦。
同窓会や旅行を楽しみにしている皆さん。
人生の節目ごとに訪れ、そのたびに「きれいになったね」と笑顔で送り出してくれる。
そんな積み重ねが、このお店にはあります。
「小池さんじゃなきゃ。」
そう言ってくださるお客様がいる理由も、今回の取材でよく分かりました。
技術だけではなく、人柄に会いに来る。
安心して時間を過ごせる。
それこそが、理容ジュニアが長年愛され続ける理由なのでしょう。
お店は時代とともに少しずつ変わります。
でも、お客様を大切に思う気持ちは変わらない。
これからも理容ジュニアは、この街で、人と人とをつなぐ場所として、やさしい時間を刻み続けていくのだと感じました。