

鶴岡市大山、酒蔵のまちにある「サンタムール」は、地酒はもちろん、ワインそしてジャンルにとらわれない料理を楽しめるお店です。昼は親しみやすい大衆食堂、夜はゆったりと過ごせるレストラン・バーとして、地元の人から観光客まで幅広いお客さんが通います。かつて地域の酒屋として愛された場所のあたたかさを受け継ぎながら、新しいかたちで人が集い、つながる場所として歩み始めています。
かつて大山地域に親しまれていた酒屋が、新たなかたちで生まれ変わった「サンタムール」。オーナーシェフの佐藤さんは唎酒師・ソムリエの資格を持ちながら、一方で地域おこしにも関わってきました。様々な経験を経て「お酒と食を楽しむ空間を通して、人を元気にしたい」という想いで2025年にオープンしました。
現在、昼は気軽に立ち寄れる大衆食堂、夜はワインや地酒を楽しめるレストラン・バーとして幅広い世代に親しまれています。要望に応じて人生の節目や記念日、大切な人との特別な時間も演出します。今後はレンタルスペースや民泊、雇用創出などにも取り組み、人に力を与える地域の拠点を目指していきます。

お酒のまち鶴岡市大山にある「地酒・ワインと料理の店 サンタムール」。長年、酒屋として地域のニーズに寄り添ってきた場所に新しいストーリーが生まれています。
お店のオーナーシェフ・佐藤さんにお話しをお聞きしました。
この場所は佐藤さんの実家。かつては「リカーショップ マタシロー」として親しまれていました。お酒だけでなく手作り惣菜なども販売し、地域の人々にとって身近な存在だったといいます。

高校卒業後、佐藤さんはすぐに実家の酒販店を手伝いました。仕事を通じてワインアドバイザーの資格を取得し、その後唎酒師とソムリエの資格も取得しました。
「働きながら、ワインや地酒を単に売るだけじゃなくて、もっと楽しんでもらいたいと思いはじめました」
酒蔵を訪ねたり、寿司店で経験を積んだりして地元のお酒と食を結びつけることに挑戦して行きました。一方で店は時代に合わせて営業形態を変えながら経営を続けていました。コンビニ運営や酒販店業務など、当時は多岐にわたる多忙な日々が続いたといいます。
「地域に貢献したいという思いはずっとありました。でもその頃は正直いっぱいいっぱいでしたね。忙しすぎて、心身のバランスを崩したこともありました」

結果的にお店は2013年に閉店しました。
それから佐藤さんは長井市で地域おこし協力隊として活動します。その後粟島に移り村営レストランの運営、そして地域資源を生かしたワインづくりで地域おこしにも関わりました。ぶどうづくりから携わり、地域の人々と向き合う日々が続いたといいます。ちょうどコロナ禍で飲食店経営の厳しさも体感しました。
コロナが終息して佐藤さんは鶴岡に戻ります。加茂に新しくできた施設のレストランで働きながら、食と地域、人とのつながりについて考え続けたといいます。
「お酒や食って土地と人と、全部つながっているんですよね。そういうことをたくさん感じさせてもらいました」
そうした歩みの先にたどり着いたのが「酒ありきで料理を楽しむ店と空間づくり」。ジャンルや国籍に縛られず自由な発想で提供する店「サンタムール」でした。サンタムールはフランスにある小さな村の名前、そしてワインの名前です。その土地と人が作り出す特有の食文化「テロワール」を楽しんで欲しいという想いを、店の名前に込めました。
「たくさんの人に支えてもらって、ここに戻ってくることができたんです」

費用かけないようにとできるだけ手作りで仕上げたという店内は、佐藤さんの趣味であるガンプラ、ギターなども並び、肩の力が抜けるあたたかな空間となっています。

「サンタムール(Saint Amour)」には「聖なる愛」という意味もあります。村の中の小高い丘に教会があり、そこで式を挙げると七代先まで祝福がある、と言われている場所なんだそうです。
佐藤さんは「人を元気にし、祝福を届ける場所にしたい」という想いも重ねます。再出発を支えてくれた人たちへの恩返しの気持ちも、その原動力になっています。

「あったかい食で人を元気にしたいんです。食は人を元気にしますよね。料理の最強のスパイスって、やっぱり愛情だと思うんですよ」
そんな想いが息づく店には、さまざまな人が訪れます。知り合いや地域の人はもちろん、近くの加茂水族館を訪れた観光客も来店します。
「昼は誰でも入りやすい大衆食堂、夜は予約制でコース料理もやっています。大山ではあまりないスタイルかもしれませんね」
“家庭料理以上、レストラン未満”。そのほどよい距離感が、気取らず、それでいて少し特別な時間を生み出しています。

ランチはラーメン、パスタ、米沢牛のカレー、ジャンボ唐揚げ、ピラフなどバリエーション豊か。「誰と来ても選ぶのに困らないように」と、あえて“間口の広いメニュー構成”にしているといいます。
ディナーは魚や肉を使ったコース料理で、予算に応じた柔軟な対応も可能。貸し切りも対応し、シャンパンサーベルやシャンパンタワーといった特別な演出も依頼できます。記念日やイベントには、まさに“記憶に残る夜”を演出してくれます。
大山の酒蔵まつりや寒だらまつりなど、地域のイベントも店内企画として取り入れるなど、かつての「マタシロー」時代から続く地域密着の姿勢も健在です。

さらに店内では「栄子のぼた餅」「栄子の赤飯」を販売しています。お母さんの名前を題したマタシロー時代から人気のロングセラーです。素朴で懐かしい味は、地元の人はもちろん、遠方からわざわざ買いに訪れる人もいるそうです。
「たくさんは作れないんですが、買いに来てくれる人がいるのは本当にうれしいですね」
懐しさと新しさ、そして遊び心が交わる場所として——。サンタムールは、大山に生まれた新しい“人が集まる拠点”になりつつあります。

「実は、長井で知り合った仲間から、“ここでプロポーズしたい”って連絡が来たんですよ」
突然の相談に驚きながらも、大切な瞬間を任されたと思いました。当日はシャンパンサーベルとシャンパンタワーでサポートしました。まるで自分のことのように緊張しながら、その特別な時間にを演出したといいます。
プロポーズはもちろん、見事成功。

「自分の店が特別な時間を支える場として選ばれたことに、喜びを感じました。ありがたいことです。これからもそういう場所として使ってもらえるよう頑張りたいと思っています」
他に、障がいのある子どもを持つ家族から貸切の相談を受けたことも、強く心に残っている出来事のひとつです。
「外食が難しいので、いつもお弁当で済ませているという話を聞いて、あったかい料理を食べさせてあげたいなとその時思いました」
“レストランで食事をする”ことはその子にとって初めての体験でした。温かい料理と安心できる空間の中で、家族一緒に食事の時間を過ごすことができたと感謝の言葉をいただきました。
「そういう時ってすごく力もらいます。世の中には悩んでいる人がたくさんいます。もしこの店に価値があるのなら、自分にもっと何かできるんじゃないかなと思うようになりました」

“愛情”という意味の店名の通り、「サンタムール 」は特別な時間、大切な時間を過ごすお客様に寄り添い、人生の節目を温かく包み込む場所として、選ばれるようになりました。

今後は、より多くの人が柔軟に関われる場所づくりを目指していくと佐藤さんはいいます。
隣接する空いた家屋を活用し、新たにレンタルスペース事業を開始。さらに民泊事業の展開も視野に入れています。
「子育て中のママさんが気兼ねなく使える場所だったり、遠方から来て数日滞在できるスペースを考えています。障がいのある人たちも集える場所になったらいいなと。食事も出しながら、柔軟に使ってもらえるようにしたいんです」
「飲食店として食事を出すのはもちろん、ほかにも人の役に立てることをやっていきたいですね」
高齢者の孤食や子育て世代の負担、障がいのある方の雇用などの地域課題解決にも力になりたいといいます。
「疲れている人や元気がない人に、ここで少しでもエネルギーを持って帰ってもらいたいです」
そして最後に、笑顔でこう語ってくれました。

「死ぬまでに、自分の銅像ができたらいいなって思うんです(笑)」
大山公園には加藤嘉八郎有邦氏の銅像が立っています。2代目として酒蔵を発展させるとともに、地域に憩いの場を残こした人物の功績。それにならって、お酒を通して地域に貢献し、人が集い憩える場所をつくっていきたい——そういう夢がこもっている言葉としてお聞きしました。
人を想い、人に寄り添う場所——。
サンタムールはこれからも、地域の中で新しい価値を生み出し少しずつ進んでいきます。
佐藤さん、お話ありがとうございました。